義歯が合わない、痛い、外れやすい、噛めない。
こうした悩みを抱えて来院される方は少なくありません。
多くの場合、患者さんは
「義歯そのものが悪いのではないか」
と感じておられます。
しかし、実際の臨床現場で問題となることが多いのは、
義歯そのものではなく、「咬合支持(こうごうしじ)」の低下や崩れです。
■ 咬合支持とは何か
咬合支持とは、
上下の歯(あるいは義歯)が適切な位置で噛み合い、
顎や筋肉が安定して力を支えられている状態を指します。
簡単に言えば、
噛む力を受け止める「土台」のようなものです。
この土台が安定していなければ、
・噛むと痛い
・力が入らない
・義歯が外れやすい
といった症状が起こりやすくなります。
どれだけ見た目の良い義歯を作っても、
この「土台」が不安定なままでは、
快適に使い続けることはできません。
■ 咬合支持は見た目では分かりにくい
咬合支持の難しい点は、
見た目やレントゲンだけでは分かりにくいことです。
歯が残っている
義歯が入っている
痛みが強くない
このような状態であっても、
実際には咬合支持が十分に機能していないケースは多くあります。
その結果、
「義歯は合わないものだ」
という誤解が生まれてしまうことも少なくありません。
■ 咬合支持を考えるうえで重要な「アイヒナーの分類」
咬合支持を評価する際に、
歯科では「アイヒナーの分類」という考え方が用いられます。
これは、
上下の奥歯の噛み合わせ(咬合支持域)が
どの程度残っているかによって分類する方法です。
この考え方は、
椅子に例えると分かりやすいと言われています。
椅子は、脚が4本そろっていれば安定します。
1本欠けると不安定になり、
2本、3本と失われると、座ること自体が難しくなります。
咬合支持も同じで、
奥歯の噛み合わせがしっかり残っているほど安定し、
失われるほど、噛む力を支えられなくなります。
義歯治療では、
「歯が何本残っているか」だけでなく、
「どこで、どのように咬合支持が残っているか」
を正確に評価することがとても重要です。
■ 義歯は「噛むため」だけの装置ではありません
義歯は、
単に噛むための装置ではありません。
本来は、
崩れてしまった咬合支持を回復し、
それを維持するための装置です。
そのため、
咬合支持の状態によっては、
簡易な義歯(保険の義歯)だけでは
十分に対応できない場合もあります。
こうした背景から、
インプラントや特殊な設計の義歯といった治療法が
生まれてきました。
それらは「特別な治療」なのではなく、
咬合支持を守るために必要な選択肢として
位置づけられるものです。
■ 装着された義歯で、咬合支持は回復しているか
義歯治療で本当に大切なのは、
装着された義歯が正しい咬合位にあり、
その位置で咬合支持が回復・維持されているかどうかです。
見た目が良いかどうかだけではなく、
噛んだときに顎や筋肉が安定しているか、
無理な力がかかっていないかを
丁寧に確認していく必要があります。
■ 次回予告
次回は、
「咬合支持はどのように検査・評価するのか?」
について、もう少し具体的にお話しします。
見た目では分からない咬合支持を、
どのように調べ、治療に活かしていくのか。
その考え方を分かりやすく解説します。
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