義歯治療でよくある「こんな時」の話
第1回|型取りが難しい方の場合
義歯治療の相談を受けていると、
「型取りが苦手でつらかった」
「以前の治療でえづいてしまい、それが不安でなかなか踏み出せなかった」
という声を聞くことがあります。
歯科治療では、これまで、やわらかい粘土のような材料を口の中に入れて型を取る方法が、一般的に行われてきました。
しかし、型取りの方法がすべての方にとって楽とは限りません。
特に、えづきやすい方や、口を長く開けるのがつらい方にとっては、大きな負担になることがあります。
また、歯周病が進行している場合には、型取りの際に歯や歯ぐきに力が加わることで、歯が大きく動いてしまったり、状態によっては歯が抜けてしまう可能性があることもあります。
もちろん、すべての方に起こるわけではありませんが、歯の状態によっては、型取りそのものが負担になる場合があるということです。
さらに、歯がグラグラしている状態のために歯型を取ること自体が難しく、
義歯の製作ができない、あるいは治療をいったん見送られた経験のある方もいらっしゃるかと思います。
決して珍しいことではなく、歯の状態によっては「従来の方法では対応が難しい」と判断されることもあります。
こうした状況に出会ったとき、私たちは「無理に従来の方法で進めることが本当に良いのか」という点から考え直します。
型取りが難しい理由が、患者さんの体質や歯の状態にある場合、その負担を減らす方法がないかを検討することが大切です。
その選択肢のひとつが、口腔内スキャナーを用いた方法です。
従来のように型取り材を口の中に入れる必要がなく、歯や歯ぐきの状態を光学的に読み取るため、えづきやすい方や、歯ぐきが弱っている方でも比較的負担を抑えて記録することができます。
口腔内スキャナー(プライムスキャン)は、現在多くの歯科医院では、セラミックの被せ物などの補綴治療を中心に使われています。
一方で、義歯治療への応用については、まだ一般的とは言えないのが現状です。
しかし実際には、条件が整えば、口腔内スキャナーは義歯治療においても有効な場面があります。
特に、従来の型取りが難しい方や、歯や歯ぐきへの負担をできるだけ抑えたい場合には、その利点が生かされます。
当院では、口腔内スキャナーで取得したデータをもとに、3Dプリンターや、義歯設計に対応した専用ソフト(exocad)を用い、自院のデジタル技工室で義歯製作を行える体制を整えています。
このような環境があることで、従来の方法では型取り自体が難しかった方でも、
義歯治療を無理なくスタートできる場合があります。
すべての工程をデジタルだけで完結できるわけではありませんが、
治療の第一歩を安全に踏み出すための有効な手段となることがあります。
スキャンしたデータをもとに、3Dプリンターを用いて義歯を製作することで、治療の流れ自体を見直すことも可能になります。
特に歯周病が進行している方では、義歯の設計そのものが治療の成否に大きく関わるため、状況に応じた設計を行えることは重要なポイントです。
当院では、歯周病の状態や残っている歯の負担を踏まえ、できるだけ無理のない形で義歯を設計することを大切にしています。
ミラクルデンチャーは、そのような考え方を形にしやすい義歯のひとつであり、症例によっては有効な選択肢となります。
義歯治療は、「この方法しかない」というものではありません。
型取りひとつをとっても、その方の状態や不安、口腔内の条件によって、いくつかの考え方や進め方があります。
以前の治療で型取りがつらかった方、
歯周病が進んでいると言われ、義歯治療に不安を感じている方にとって、
この話がひとつの参考になればと思います。
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