院長の学び日記(歯科の本棚から)
「噛める安心感」――噛み合わせの最重要事項:咬頭嵌合位
先日、ミラクルデンチャーを装着した患者さんから、印象に残る言葉をいただきました。
「ずっと奥歯がなかったのですが、入れ歯が入って奥で噛み締めると、何か落ち着きますね。」
この一言に、あらためて咬み合わせ(咬合)の持つ力を感じました。
📘 書籍『臨床咬合学辞典』より学ぶ
今回の学びの軸は、長谷川成男・坂東永一 監修『臨床咬合学辞典』(医歯薬出版)。
坂東先生は私の母校・徳島大学で在籍時にご指導いただいた、日本を代表する補綴医です。
本書は、噛み合わせに関する考えが入り乱れがちな昨今において、「咬合」を正しく整理して学べる一冊として大きな価値があります。
🔑 キーワード:咬頭嵌合位(こうとうかんごうい)
上下の歯が最も安定して噛み合う位置=咬頭嵌合位。本書では、その臨床的意義として次の趣旨が示されています。
咬頭嵌合位が不安定であったり、何らかの原因で噛み締めができなくなると、精神状態が散漫となり、イライラすることがある。
これは単なる「咀嚼効率」の話にとどまらず、“噛める”という行為そのものが心身の安定に関わることを示唆します。
🦷 義歯で「噛める」を取り戻す意義
冒頭の患者さんの「奥で噛み締めると落ち着く」という実感は、まさにこの理論と響き合う体験です。
長年噛めなかった部位で再び噛めるようになることは、咬合・筋活動・感覚の再統合を促し、“噛める安心感”へとつながります。
義歯治療は、単に歯を補うだけではなく、生活の安定感を支える医療であることを、あらためて感じました。
🌸 まとめ
- 『臨床咬合学辞典』は、咬合の正しい理解を深める良書。
- 臨床のキーワードは咬頭嵌合位。その安定は精神面にも影響しうる。
- ミラクルデンチャーなどの義歯により「噛める安心感」を取り戻せる可能性がある。
引用書籍:
『臨床咬合学辞典』/監修:長谷川 成男・坂東 永一/医歯薬出版株式会社

※当院で所蔵している『臨床咬合学辞典』(医歯薬出版)を撮影したものです。
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