当院が咬合(かみ合わせ)を大切にしている理由の一つに、
「咬合を歯だけの問題として捉えない」という考え方があります。
歯科治療では、咬合を
「上下の歯がどこで、どのように当たっているか」
という視点で評価することが少なくありません。
しかし、それだけで咬合の良し悪しを判断することには、限界があると考えています。
今回の学びの軸になっているのが、
『臨床家のためのオクルージョン ― 石原・咬合論 ―』で示されている
機能的咬合系(functional occlusal system)という考え方です。
咬合は、
・歯
・顎関節
・咀嚼筋
・神経系
これらが相互に関係しながら成り立つ、一つの機能的なシステムです。
歯の接触関係だけを切り取って評価してしまうと、
実際に口腔内で起きている現象を見誤る可能性があります。
咬合治療では、
術者が「理想的」と考える形や基準を、
そのまま患者さんに当てはめてしまいたくなる場面もあります。
しかし、
顎の形態、筋の使い方、咀嚼の癖、生活習慣などは、
人それぞれ大きく異なります。
咬合には著名な個人差があり、
一つの型にすべての人を当てはめることは現実的ではありません。
そもそも咬合は、
術者がゼロから設計して作り上げるものではありません。
顎の形態や神経筋機構は、
遺伝情報に基づいて形成されているものです。
言い換えれば、咬合は
人が後から作ったものではなく、生体に最初から備わっている機構です。
少し比喩的に言えば、
咬合は「人が作るもの」ではなく、
神様が作ったものを、いかに壊さず、いかに活かすかを考える対象だと捉えています。
ここで一つ、誤解されやすい点について触れておきたいと思います。
見た目が整っていないからといって、
必ずしも噛み合わせが悪いとは限りません。
歯並びや補綴装置の形態が教科書的でなくても、
神経筋機構と調和し、長年問題なく機能している咬合は少なくありません。
一方で、見た目は整っていても、
機能的な負担が大きく、不調の原因になっている咬合も存在します。
当院では、
見た目だけで噛み合わせの良し悪しを判断することはせず、
実際にどのように機能しているかを重視して診療を行っています。
咬合は、
歯だけの問題ではなく、
顎・筋・神経を含めた全身的な機能の一部です。
だからこそ当院では、
形だけを整える治療や、
一つの理論を押し付ける治療ではなく、
その方にとって無理のない、現実的に機能する咬合を目指しています。
この考え方が、
当院が咬合を大切にしている理由であり、
義歯治療においても変わらない基本姿勢です。
「義歯とかみ合わせ」のシリーズを終えた後は、
次に「咬合の基本」についてのシリーズを予定しています。
その中でも、
『臨床家のためのオクルージョン ― 石原・咬合論 ―』の考え方を随所に紹介しながら、
咬合を臨床でどのように捉え、どう活かすかをお伝えしていく予定です。
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