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コラム

介護は突然始まるわけではありません ― 70代から考えたい体の変化

介護は、ある日突然始まるものではありません。
多くの場合、70代頃から少しずつ進行する体の変化の積み重ねの先にあります。

「子育てには終わりがあるけれど、介護にはいつ終わるのかが見えない」

これは、実際に患者さんからお聞きした言葉です。
私たちが向き合っている高齢社会の本質を、非常によく表しています。

■ 介護が増える背景には「段階的な変化」があります

厚生労働省の統計(2022年)では、要介護認定率は70代後半から徐々に上昇し、80代で大きく増加することが示されています。

つまり、
70歳で急に介護が始まるのではなく、
70代に始まった体力・筋力・認知機能の低下が、80代で表面化するという流れです。

この「70代の過ごし方」が、その後を大きく左右します。

■ 介護の主な原因は何でしょうか?

介護が必要になる主な原因としては、
・転倒・骨折
・認知症
・脳血管疾患
・高齢による衰弱
などが挙げられます。

一見、歯とは関係がなさそうに見えますが、これらの多くに共通して関わっているのが「噛む力(咀嚼)」です。

■ 噛めることが、体を支えます

噛めるようになることで、
・食べられる食品の種類が増える
・タンパク質や栄養を十分に摂取できる
・筋肉量が維持される
・ふらつきにくくなる
・認知機能の低下が緩やかになる

といった良い循環が生まれます。

その結果、転倒しにくくなり、介護の開始を遅らせられる可能性があります。
これは研究結果と、日々の臨床経験の両方から感じている事実です。

■ 臨床の現場で感じること

歯を失ったまま食事量が減り、徐々に体力が落ちていく方を多く見てきました。
一方で、適切な義歯治療によって再び「噛める状態」を取り戻し、表情が明るくなり、外出や食事を楽しまれるようになった方も少なくありません。

介護が増える理由は決して一つではありません。
しかし、「噛む力」「食べる力」を70代から維持できているかどうかは、その後の人生に大きく影響すると考えています。

■ 義歯治療は「歯の治療」ではありません

義歯治療は、単に歯を補うための治療ではありません。
食事を楽しむこと、体を支えること、自立した生活を続けること、そして介護のリスクをできるだけ先送りすること。

そのための「生活を支える医療」だと、私たちは考えています。

■ 前回のコラムとのつながり

前回のコラムでは、「噛む力が全身の健康にどのように関わるのか」についてお話ししました。

▶ 前回のコラム
「子育てには終わりがあるが、介護には終わりが見えない|噛む力と全身の健康」

「子育てには終わりがあるが、介護には終わりが見えない」噛む力と全身の健康

■ 来月以降は、さらに詳しく解説していきます

次回以降のコラムでは、
・なぜ80代で介護が一気に増えるのか
・女性の介護期間が長くなりやすい理由
・栄養・筋肉量と噛む力の関係
・転倒・骨折と義歯
・認知症と咀嚼の関係
について、テーマごとに丁寧に解説していく予定です。

「まだ大丈夫」と感じている70代のうちに、何を整えておくか。
それが、将来のご本人とご家族の負担を大きく左右します。

義歯治療を通して、皆さまの「元気な毎日」を支えるお手伝いができれば幸いです。

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