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コラム

噛めないことは要介護リスクになる?草津町研究から考える健康寿命と義歯治療の質

— 健康寿命を支える補綴治療 —

はじめに

これまで、草津町研究を通して「噛めない状態」が死亡リスクと深く関係していることを見てきました。
では、「噛めないこと」は健康寿命、特に要介護状態のリスクとはどのように関係しているのでしょうか。

高齢者医療の現場では、
・認知機能の低下
・身体機能の低下
・栄養状態の悪化
が重なり合うことで、要介護状態へと進行していくケースを多く目にします。

草津町研究は、こうした流れを科学的に裏付ける重要なデータを示しています。

認知機能低下と「噛める状態」の関係

草津町研究では、認知機能(MMSE)と口腔機能との関係についても詳しく検討されています。

その結果、
・機能指数が低い
・主観的に「噛みにくい」「あまり噛めない」と感じている
高齢者ほど、認知機能の低下と強く関連していることが示されました。

正確に言えば、
**認知機能の低下そのものが、要介護状態の大きなリスク因子**
であることは間違いありません。

一方で、
噛めない状態が続くことで、
・食事内容が偏る
・栄養状態が低下する
・活動量が減少する
といった変化が積み重なり、結果として認知機能低下を助長する可能性があることも、臨床的には強く感じられます。

つまり、
「噛めない → 認知機能が低下する」
「認知機能が低下する → 要介護リスクが高まる」
という流れと同時に、
その逆方向の影響も存在する、**双方向の関係**と考えるのが自然です。

健康寿命に影響するのは「歯の本数」ではない

草津町研究が示したもう一つの重要な点は、
健康寿命に影響するのは、
「ご自身の残っている歯の本数(現在歯数)」ではなく、
**欠損部位に対して補綴治療が行われ、実際に噛めている歯の数(機能指数)**
であったという点です。

これは、
歯があるかどうか以上に、
**実際に上下で咬合し、機能しているかどうか**
が重要であることを意味しています。

義歯やインプラントによって補綴されていても、
・噛みにくい
・違和感が強い
・痛くて外してしまう
といった状態では、機能指数としては意味を持ちません。

臨床の肌感覚と研究データの一致

義歯治療を中心に、多くの高齢者の方と向き合ってきた臨床の現場では、
「やはりそうだろう」
と感じる結果が、この研究には数多く含まれています。

とりあえず作られた義歯は、
実際には装着されなくなることが少なくありません。
装着されない義歯は、
当然ながら噛む機能を果たさず、機能指数にもなりません。

口腔内は非常に感覚の鋭い器官で、
髪の毛一本の違和感でも感じ取るほどのセンサーを持っています。
だからこそ、
**義歯の「数」ではなく「質」**
が何より重要になります。

通院できるうちに行う補綴治療の意味

要介護状態になると、通院そのものが難しくなり、
診療室で行うような精密な補綴治療や咬合調整は、現実的に困難になります。

だからこそ、
・まだ通院できるうちに
・身体機能が大きく衰える前に
・「使われる義歯」をきちんと作る

このタイミングでの補綴治療が、
健康寿命を支える上で非常に重要になります。

当院が、義歯治療の質にこだわり、
視野を広く保ち、対応範囲を広げてきたのは、
単に歯を補うためではなく、
その先にある生活・自立・人生を見据えているからです。

おわりに

草津町研究の数字は、決して机上の理論ではありません。
日々の臨床で感じてきた実感と、驚くほど重なります。

補綴治療は、
歯を入れるための治療ではなく、
噛む機能を回復・維持し、
健康寿命と自立を支える医療です。

義歯の「数」ではなく「質」にこだわる理由は、
まさにここにあります。

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