前回は、インプラント治療においてCT撮影がなぜ重要なのかについてお話ししました。
CTを撮影することで、顎の骨の高さや幅、神経や上顎洞との位置関係などを三次元的に確認することができます。
そのため、
「インプラントをすることになったらCTを撮る」
というイメージを持たれている方も多いと思います。
もちろん、インプラント治療を計画するときにCTは非常に重要です。
しかし当院では、将来的にインプラントなどの治療を検討する可能性がある場合には、「歯を抜いた後」ではなく「歯を抜く前」の状態を確認することも大切だと考えています。
なぜなら、歯を抜くと、その周囲にあった顎の骨も少しずつ形を変えていくからです。
今回は、
「なぜ抜歯する前にCTを撮影することがあるのか」
そして、
「将来の治療を考えた抜歯とはどういうものなのか」
についてお話しします。
1.「抜歯して、治ってから考える」だけではない
保存することが難しくなった歯について、
「まず歯を抜いて、傷が治ってから次の治療を考えましょう」
という流れをイメージされる方は多いと思います。
もちろん、症例によってはそのような方法を選択することもあります。
しかし、将来的にインプラントなどの治療を考える可能性がある場合には、抜歯する前からその後の治療について考えておくことが重要です。
なぜなら、抜歯した部分の骨は、そのままの形で残るわけではないからです。
歯を抜いた後、抜歯した穴は自然に治っていきます。
しかし、「傷が治ること」と「抜歯前と同じ形の骨が残ること」は同じではありません。
治癒する過程で顎の骨の高さや幅が変化し、将来インプラントを入れたい位置に十分な骨が残らないこともあります。
そのため、
「抜歯が必要だから、とりあえず抜く」
のではなく、
「抜歯した後にどのような治療を行う可能性があるのか」
まで考えておくことが大切なのです。
2.抜歯前のCTでは何を見ている?
通常のレントゲンでも、歯の根や周囲の骨の状態をある程度確認することができます。
しかし、通常のレントゲンは基本的に二次元の画像です。
CTでは、歯の周囲の骨を三次元的に確認することができます。
たとえば、
・歯の周囲にどのくらい骨が残っているか
・頬側や舌側・口蓋側の骨の厚み
・骨がどの部分で失われているか
・根の周囲に病変がないか
・上顎洞との位置関係
・下顎の神経との位置関係
・抜歯後にどのような骨の形態になることが予想されるか
などを確認します。
特に重要なのが、「骨の壁がどの程度残っているのか」という点です。
抜歯する歯の周囲に骨が十分残っている場合と、歯周病や根の周囲の病変などによってすでに骨が大きく失われている場合では、抜歯後の対応が同じとは限りません。
抜歯する前にCTで状態を確認しておくことで、その後にどのような対応が必要になりそうなのかを事前に検討しやすくなります。
3.歯を抜くと、骨にも変化が起こります
歯は顎の骨の中に埋まっています。
そして歯の周囲には、その歯を支えるための「歯槽骨」があります。
歯を失うと、その部分の骨にはそれまでとは違った変化が起こります。
抜歯した穴には血液がたまり、時間の経過とともに新しい組織ができ、やがて骨へと置き換わっていきます。
しかし、その治癒過程で歯槽骨の形態は変化します。
特に、骨の「幅」が小さくなることがあります。
つまり、
「抜歯した穴が骨で治った」
からといって、
「抜歯前と同じ高さ・幅の骨が残った」
ということではありません。
この違いは、将来インプラント治療を考える場合には非常に重要です。
4.インプラントを入れる場所を将来から逆算する
インプラント治療で大切なのは、
「骨が残っているところにインプラントを入れる」
という考え方だけではありません。
最終的に、
「どの位置に歯をつくりたいのか」
を考え、その位置に適切にインプラントを配置できる環境を整えることが重要です。
たとえば抜歯後に骨が大きくへこんでしまった場合、インプラントを理想的な位置に入れるために、後から骨造成が必要になることがあります。
そのため、将来インプラントを行う可能性があるのであれば、
「抜歯後に骨がどうなるか」
まで考えたうえで抜歯を計画するという考え方があります。
つまり、インプラント治療は、
「インプラントを入れる日」
から突然始まるわけではありません。
場合によっては、
「その歯を抜くと判断した時点」
から、将来のインプラント治療を考え始める必要があります。
5.抜歯そのものも大切です
将来のインプラント治療を考える場合、抜歯の方法も重要です。
歯を抜く際には、周囲の骨や歯肉にできるだけ配慮しながら抜歯することが大切です。
特に、将来インプラントを予定している部位では、残っている骨をできるだけ温存するという考え方が重要になります。
もちろん、歯の状態によっては簡単に抜けないこともあります。
歯根が割れている場合、根の形が複雑な場合、感染が広がっている場合など、条件は患者さんによって異なります。
そのため、
「どの歯も同じように抜けばよい」
というわけではありません。
抜歯前に周囲の状態を把握し、できるだけ将来の治療に有利な環境を残すことを考えます。
6.抜歯したら自然に治すだけでよい?
ここで一つ疑問が出てきます。
「歯を抜いた後は、自然に治るのを待てばいいのでは?」
という疑問です。
もちろん、抜歯後に自然治癒を待つことが適切な場合もあります。
すべての抜歯部位に特別な処置が必要というわけではありません。
しかし、将来的にインプラントなどを予定している場合には、抜歯後に骨がどのように変化するのかを考える必要があります。
抜歯前のCTで骨の状態を確認すると、
「この部分は比較的骨が残りそう」
というケースもあれば、
「このまま治癒を待つと、将来必要な場所の骨が不足する可能性がある」
と考えられるケースもあります。
そのような場合には、抜歯と同時に、将来の治療を行いやすくするための処置を検討することがあります。
7.抜歯時から骨をできるだけ残すという考え方
近年では、抜歯後の骨の変化をできるだけ抑え、将来のインプラントや補綴治療を行いやすい環境を残すという考え方が重視されています。
その代表的な方法の一つが、
「ソケットプリザベーション」
です。
ソケットとは、歯を抜いた後にできる穴、つまり抜歯窩のことです。
プリザベーションは「保存する」という意味です。
つまりソケットプリザベーションとは、抜歯した部分の骨の形態をできるだけ維持することを目的として行う処置です。
ただし、
「ソケットプリザベーションをすれば骨がまったく減らない」
というわけではありません。
また、すべての抜歯で必要な処置でもありません。
骨の残り方や欠損の程度、感染の状態、将来予定している治療などを考えて、必要性を判断します。
このソケットプリザベーションについては、今後詳しくお話しします。
8.「抜歯」は治療の終わりではなく、次の治療の始まりでもあります
虫歯や歯周病、歯根破折などによって、どうしても歯を残すことが難しくなることがあります。
その場合、抜歯は必要な治療です。
しかし、歯を抜いたところで治療がすべて終わるとは限りません。
その場所に、
・インプラントを入れるのか
・ブリッジにするのか
・入れ歯にするのか
・しばらく経過を見るのか
によって、その後に求められる条件は変わります。
特に将来インプラントを考える可能性がある場合には、
「抜いてから考える」
のではなく、
「抜く前から、その後を考える」
という視点が重要です。
当院では、必要に応じて抜歯前にCTで骨の状態を確認し、将来の治療方法まで考えながら抜歯後の対応を検討します。
まとめ
インプラント治療というと、
「歯がなくなってからCTを撮影して、インプラントを入れる」
という流れを想像されるかもしれません。
しかし、将来の治療を考えると、それより前の段階が重要になることがあります。
歯を抜くと、その周囲の骨は治癒する過程で形を変えていきます。
そのため、将来的にインプラントなどを検討する可能性がある場合には、抜歯する前にCTで骨の状態を確認し、
「この歯を抜いた後、どのような骨の状態になるのか」
「将来どこに歯をつくりたいのか」
まで考えておくことが大切です。
単に歯を抜いて治るのを待つのではなく、必要に応じて残っている骨をできるだけ温存し、将来の治療を行いやすい環境を整える。
これも現在のインプラント治療における大切な考え方の一つです。
インプラント治療は、インプラントを埋める日から始まるのではありません。
場合によっては、「歯を抜く前の診断」からすでに始まっているのです。
次回は、
「抜歯すると骨はどうなる?歯を失った後に起こる『骨の吸収』」
について、もう少し詳しくお話しします。
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